パッケージにまつわる法律、調べてみました~意匠権~
どんな製品であっても必ず『デザイン』があります。機能だけではなく、デザインも売上げに影響を及ぼすファクターのため、各企業は優れたデザインを生み出すために注力しているのです。
そうして苦労の末に誕生したデザインは『意匠権』の対象となり、意匠登録を行うことで保護――すなわち模倣の防止が出来ます。
知的財産権のひとつ『意匠権』とは
『意匠権』は『著作権』『特許権』『商標権』に比べると、若干馴染みが少ない言葉かも知れませんが、同様に『知的財産権』の保護対象です。
もともとはパッケージや電化製品、日用品等が対象とされていたものの、2020年から法改正で画像や建物の外観・内装も保護の対象に加わりました。
『意匠権』の登録要件とは
意匠権の獲得には特許庁へ出願と登録を行わなければなりません。特定のデザインを意匠権として登録するためには、以下の要件を満たす必要があります。
(1)工業上の利用可能性
工業的な技術によって同一物を反復して多量に生産可能であることを『工業上の利用可能性』と言います。動植物等の自然物、絵画美術品等の制作物は工業上の利用可能性から外れ、意匠登録は出来ません。
(2)新規性
『新規性』は新しいデザインのことです。世界的に広く知られているデザインやインターネット上に公開されたデザインは意匠登録出来ません。
(3)創作非容易性
同じ分野の通常の知識を有する者が容易に創作出来ない『創作非容易性』も要件となっています。公知のデザインの配置を変更したり、置き換えたりしたデザインは意匠登録が出来ません。
『意匠権』(意匠登録)の実例
現在、様々な製品が意匠登録され、権利化されています。実例をご紹介いたしましょう。
ユニ・チャーム社:超立体マスク
意匠分類:Cグループ(生活用品)
出典:なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集(経済産業省 特許庁)
サントリーHD社:伊右衛門
意匠分類:Fグループ(事務用品及び販売用品)
出典:なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集(経済産業省 特許庁)
トヨタ自動車社:iQ
意匠分類:Gグループ(運輸又は運搬機械)
出典:なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集(経済産業省 特許庁)
東日本旅客鉄道社:駅舎
(参考)上野駅公園口駅舎(東日本旅客鉄道株式会社提供)
意匠分類:Lグループ(建築物及び土木建築用品)
出典:経済産業省ニュースリリース|建築物、内装の意匠が初めて意匠登録されました(https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201102003/20201102003.html)
『意匠権』の侵害が認められた判例
意匠権が侵害されたとして、訴訟となった事例も少なくありません。その中で意匠権侵害が認められた事例が平成24年の体重計のデザイン訴訟です。
これは『体重測定機付体組成測定器』の意匠権を持つオムロンが、タニタによる体組成計の生産等の行為は自社の2つの意匠権を侵害する行為と主張し、タニタの体組成計の生産等の差止めと廃棄、損害賠償を求めたもの。結果的に一方の意匠権には類似しないが、他方の意匠権に類似すると判断され、東京地裁はタニタに約1億2900万円の支払いを命じました。結果的に2016年1月の知財高裁にて両社は和解しているものの、高額の損害賠償を伴う判決は話題となりました。
法改正により保護対象が拡大されたことは冒頭でお伝えした通りですが、改正に伴って訴訟も増えていくのかも知れません。
『意匠権』について留意すること
法改正によってこれまで意匠法との関連性が少なかった業界の方々も、意匠権について留意していかなければならないでしょう。自社の意匠が保護されるメリットもあるのですが、他社の意匠権に抵触してしまうリスクも高まると考えられます。
意匠権を侵害しているか否かの判断は困難で、誰が見ても一目瞭然とはなり難いものです。しかし、一般消費者が混同しやすい意匠を避けるだけでもリスクヘッジに繋がるのではないでしょうか。
なお、意匠の登録、意匠権の侵害等については専門的な検討や判断が必要となりますので、自社の意匠等に関連してご不明点がある場合には専門家へのご相談をオススメいたします。